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宮前(みやまえ)博(ひろし)は息を切らしながら夜道を走っていた。ちょうど目についた路地裏に入り、息を整える。街灯の下、荒い息を整えながら視線を下ろすと、自分の手のひらにべっとりと血がついている。4月の温かい空気の中でも、その手は震えていた。ちょっと脅かしてやろいうと思っただけだった。どうしてこんなことになったのかわからない。こんなつもりはなかった。誰かを殺すつもりなんてなかったのに。
「おい」
声をかけられ、宮前はびくりと震えた。顔をあげると、若い男が立っていた。黒いコートを着て、壁にもたれて立っている。彼は低い声で尋ねてきた。
「お前、人殺したろ」
「な、なんの話だよ」
宮前は後ずさった。なんなんだこいつは。動揺しながらも、血に染まった手を背中に隠す。男がこちらに近づいてくる。
「ごまかしてもわかんだよ」
彼は宮前の腕をつかんだ。宮前は息を飲んで、男の顔を見た。男の眼が赤く光る。悲鳴をあげそうになった宮前の口を手でふさぎ、男が囁いた。
「同類だからな」
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