俊足婦警と人魚

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姫宮(ひめみや)香(かおり)は夜道を走っていた。月の光もなく、人影もなく。ただ、地面を蹴る音と自分の息遣いだけが響いている。夜のランニングは日課だ。最近考査の勉強ばかりで体がなまっていたせいか、いつもよりペースが落ちている。ペースをあげようとしたその時、林の中からがさりと音がした。 「?」 姫宮は足を止め、林の中を覗いた。耳をすますと、声が聞こえてきた。女の声。甘くかすれるようなそれは、喘ぎ声のようにも聞こえた。野外でそういうことをする人間もいるのかもしれない……。 姫宮は顔を赤らめる。邪魔しちゃ悪い、そう思って踵を返すと、どさり、と音がした。振り向くと、女が倒れていた。長い髪がまとわりついているせいで顔が見えない。上半身は裸に見えた。姫宮はぎょっとして、彼女に近づいた。 「大丈夫ですか」 姫宮はふと、違和感を感じ、暗闇に目を凝らす。倒れている女の下半身は、うろこのようなもので覆われていた。姫宮が固まっていたら、女の目がぎょろりとこっちを見た。女は姫宮を見てにたりと笑う。避けた口から、鋭い牙が覗いた。姫宮は悲鳴をあげた。 ★ 霧峰悠斗は、部屋に響く着信音でぱちりと瞳を開けた。梅雨時特有のじっとりとした暑さが気持ち悪い。ベッドから起き上がり、枕もとに置かれているスマホを手に取った。メールだ。一体誰だろう。霧峰に連絡してくるような人間はほとんどいない。寝ぼけまなこをこすりながらメールを開くと、顔文字を多用した文面が目に飛び込んできた。 「すぐ来てください 佐原」 佐原? ああ、「新しいの」か。霧峰は頭を掻いて、スマホをシーツに放る。もう一度寝転がり、夢の世界に入ろうとしていたら、着信が鳴る。霧峰は舌打ちし、スマホを耳に当てた。 「何」     
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