俊足婦警と眠い男

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東京I区の午前8時。春の日差しが信号待ちをする車を照らしている。ミニパトから降り立った佐原(さはら)夏樹(なつき)は、制服姿で駐車禁止のしるしをつけていた。彼女が白墨を動かすたび、アスファルトに線が引かれていく。佐原が次の車の駐禁を取ろうとしていると、 「あーっ、ちょっと待って待って!」  慌てた様子の運転手が走ってくる。佐原は息を切らす運転手を、腰に手を当ててにらむ。 「ここは路駐禁止地帯ですよ!」 「見逃してよ、ね」 拝まれて、佐原は唇をとがらす。 「しょうがないなあ、もうやっちゃだめですよ!」 「ありがと! いやあ、優しいうえに美人婦警って最高だなあ!」  佐原は照れて頭の後ろに手をやる。 「やだ、美人だなんて」 「じゃあね」 彼は車に乗りこもうと素早くドアをあける。 「あ、念のため住所と氏名……」  佐原が記入用紙を差し出そうとしたら、男が慌てて車に乗り込んだ。そのままエンジンをかける。 「あっ」 佐原は去っていく車に手を伸ばし、むうっとむくれた後、強くこぶしを握って走り出した。 運転手はミラーに映る佐原を見て驚いたらしく、ギョッとした顔で窓から顔を覗かせる。佐原は脇を走っていく自転車を軽く追い越していた。通行人の高校生が面白がってスマホを向けている。 信号待ちしている間、追いついてきた婦警が汗をぬぐいながらにっこり笑う。 「住所と氏名、お願いします!」  2時間後、佐原は警視庁の交通課で深々と頭を下げていた。 「佐原くん、君ねえ……」     
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