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「す、すいません、まさか撮られてたなんて」
交通課の課長が額をおさえ、はあっ、とため息をついた。彼は佐原の方にパソコンを向ける。ブラウザの上部には、有名な動画サイトのロゴが書かれていた。佐原が全速力で走っている写真がネットにアップされ、話題になっているようだ。
「好意的な意見もあるが、大半は『たかが駐禁でばかじゃねえの』『ウケる』そういう中傷が主だ」
「たかが駐禁って、車の事故が多いいま、取り締まりは重要です! それにあそこは通学路ですし」
「自論を振りかざす前にもっと市民の目を気にしたまえ!」
課長が強くデスクを叩くと、置かれていた湯のみがカタカタ音を立てた。佐原はびくりと震え、身を縮める。
「すいません……」
「デスクに戻って始末書を書きたまえ」
すごすごと自分の席に戻ると、隣席の同僚が同情的な目線を向けてきた。
「気にしないほうがいいよ」
「うん……」
「でもすごいね、車に追いつくなんて」
「えへ、高校時代陸上部だったの」
佐原は得意げににこっと笑う。勉強や芸術はからっきしで、走るのだけが取り柄だったので、公務員試験に受かったのは親や友人には奇跡といわれた。まったく失礼な言いぐさである。
「あ、課長が睨んでる」
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