俊足婦警と虎

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圭一がポツリと言う。 「俺の髪の毛が派手だから」 「じゃあ僕が染めてやるよ」 「晴矢も変装したほうがいい」 日下部はうーん、と考えた後ぱん、と手を打ち鳴らした。 「そうだ、見た目を交換しようか」 そう言って圭一にサングラスをかける。彼は暗い、とつぶやいた。 「似合うよ」  楽しげに笑う日下部の後ろで、水槽がごぽりと音を立てる。その中に、ピアスのついた耳が沈んでいた。 虎事件のあと、女性の頭部を切断する事件は途絶えた。 「警視庁のデータべースに日下部晴矢って名前はなかったそうです」 トクハンの仕事場にて佐原がそう言うと、霧峰が足にまとわりついてきた猫をはがしながら答えた。 「そりゃ、偽名だろうしな」 「指名手配されたから、自重してるんでしょうか。もう犯罪を犯す気がないといいんですけど」 佐原は霧峰のそばを離れ、こちらにやってきた猫を撫でた。 「単に獲物を探してるんじゃないか」 霧峰は椅子にもたれ、地図を翳した。本当に佐原の言う通り、星座になぞらえているとしたら?わからない。情報が少なすぎる。考えているうちに眠気が襲ってくる。霧峰は地図を机に放り、目をつむった。
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