音楽室にて

2/3
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
昔、小学校の音楽室に大きな鏡があった。その鏡にまつわる怖い話を友達に聞いたことがある。今思えばそんなに怖い話でもなく、むしろツッコミどころの多いものなのだが、当時はとても恐ろしかった。 「音楽室にある大きな鏡に真夜中妊婦さんが映り込む。そのまま鏡を見つめていると鏡の中の妊婦さんに腕を掴まれ異界へと連れ込まれる。」 突然友達に腕を引っ張られたのが印象的で今でも鮮明に覚えている。びっくりした私を楽しそうに見ていた。この噂で1つだけ妙に引っかかる部分がある。なぜ、小学校の鏡に妊婦さんが映るのかという点だ。友達もそのことは知らないらしく、素っ気ない返事しかなかった。子供の頃のことだが、私はその事が気になって仕方なく、小学校のアルバムを引っ張り出して担任だった先生に尋ねてみることにした。最初は他愛のない会話をしつつ、機会を窺った。 「そうそう、この前ね、立て替え工事をしたのよ。廊下とかギシギシうるさいし、風の強い日は少し校舎が揺れるしで保護者からも不安な声が上がってね。今度見にいらっしゃいな。とっても綺麗になったわよ。特に音楽室とか・・・・。」 先生の声と被って何かノイズのような音が聞こえた気がした。電波が悪いのだろうかと思ったが、話題が音楽室になったのを逃せるはずもない。私は先生に早口で尋ねた。 「あの、先生、音楽室の鏡のことなんですけど!」 「え?あー、あの大きな鏡かしら?」 「あれって元々小学校にあったものなんですか?」 そう言おうと口を開いた時だった。耳元でジジッと嫌な音が聞こえた。思わず携帯を耳から離す。携帯の向こうから先生の声が小さく聞こえる。 「すいません、なんか電波が悪いみたいで。それであの、鏡なんですけど・・・。」 「あれはね、音楽室の前は病院にあった物なの。小学校ができる前にその病院はなくなったのだけれど、校長先生があの鏡をとても気に入ってね。譲って欲しいって病院の関係者にお願いしたの。」 病院というワードが耳の中に残った。病院にあった鏡、それだけで何か曰く付きな響きで私は少し興奮した。 「ただ、踊り場にはもう別の鏡があったからどこに飾るのかでずいぶん悩んだみたい。大きな鏡だから、場所も限られるでしょ?そこで一番広かった音楽室に飾ることになったの。」 私の様子など知りようもない先生が淡々と話す。時折ノイズが走るが私はあまり気にならなくなっていた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!