○追憶編⑤~本物の人~

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 澪ちゃんの声が珍しく震えていた。  私も「これで終わりなんだ……」と涙が出そうになり、声が少し震えたがなんとか堪えた。  最後のハモリを最高のハモリにしたかった……  そして最後の一音を精一杯、歌いきった。  後奏が終わった後、なかなか拍手が鳴り止まなかった。  最後のライブは、今までで一番の……最高のライブだった。 「最後まで聞いていただきありがとうございましたー! OURSKYでしたー!」  私が即席でつけたアナグラムのアーティスト名はそのままバンド名になっていて、それも今日で終わりかと思うと、なんだかとても切なかった。  それから少し経ったある日、公募雑誌を何気なく見ていたら気になる記事を見つけてしまった。  特集の見開きで、高校生作曲コンクール最優秀賞の○○さんデビューという大きな見出しだった。  私が賞を貰ったのと同じコンクールで名前も見たことがある先輩…… 「有名コンクールでも大賞を受賞して音大に推薦入学も決まったが、この度本格的に音楽活動開始&CDデビュー決定……」  そのデビュー曲が映画の曲として近日発売されるとのことだった。 「さすが先輩……本物の才能がある人はレベルが違うな」 「やっぱり音大に行くような人はすごいや………………私と違って……」  先輩の曲が使われているという映画自体は見に行けなかったが、CMで少し聞いたメロディが気になってCDを買ってしまった。  帰りの電車の途中、ウォークマンで曲を聞いていた私はサビの部分で思わず呟いた。 「あ……サビが『空を見上げて』だって」 「ふふ……自分を信じて歩いて行こうって私が送ったコメントみたいだな……」  私は音大受験を諦めて、進学塾に通い始めた。  そして、ある大切な人と出会った。
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