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○追憶編⑧~秘密~
「篠田先生ってカッコいいよね~優しくて、包容力があって~」
英語の授業前、同じクラスの女子高生達が盛り上がっていた。
先生の魅力に気付いたのは、もちろん私だけのはずはなく……
「年の差が開いても関係ない」と時期的にバレンタインの恋話が盛り上がっていた。
そんな中、先日渡したテープは私が最も困惑してしまう形で帰ってきた。
まさかの英語の小テスト中に……
カチャ……
シーンとした教室内に響く、何かをテーブルに置いたような変な音。
私は一番後ろの席にいたので、机に置かれたテープを急いで筆箱の下に隠したが……
授業が終わると秘密のやり取りに気付いた女子高生達が、ヒソヒソ話をしながらこっちを睨んできた。
(どうしよう気まずいよ~)
「あれ?」
こっそりカバンにしまおうとカセットテープを見ると、四つ折りの紙が挟まっていた。
トイレに隠れて紙を開くと……そこにはパソコンの文字で沢山の曲の感想と励ましの言葉が書かれていた。
「…………です。篠田さんは夢を諦めず作曲も頑張って下さいね。いつか新しい曲が聞けるのを楽しみにしています」
私はこんなに心のこもった感想を貰ったのも、男の人から手紙を貰ったのも、初めてだったので嬉しくて泣いてしまった。
水性インクでプリントされていたのだろうか……こぼれた涙の部分の文字が雫型に滲んでしまった。
トイレから出ると例の女子高生達が、相変わらずこっちを睨んでいた。
「そうだ!」
私はとある会話からあることを思いついた。
(もうこうなったらヤケだ……)
私は急いで塾の教室があるビルの階段を下りた。
そして急遽できた用事のため、先生が授業後の質問などを受けている間に、別ビルにある職員室に向かった。
職員室に入る手前の先生を、階段の踊り場の陰から「ちょっといいですか?」と手招きする。
そして、帰る時間になるとほとんど人が来ない階段下で「手紙ありがとうございます」、「いやこちらこそ」というやり取りの後、今日の行動の軽率さについて先生に少し文句を言った。
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