○追憶編①~誰も知らないはずの歌~

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 公園の奥にある広場に着くと、雲一つない青空と芝生の濃い緑……  小さなステージのように小高い丘と、その上に置かれた四本足のキーボード……  30代位の女性アーティストだと思われる方が、弾き語りをしていた。 「……今の曲は、あるアニメ映画のエンディングになった曲なので、ご存じの方もいたかもしれません……」 「続いての曲は……今まで人前で歌ったことはなく、CDにもなっていないので『誰も知らない歌』と言ってもいいかもしれません」 「短いですが、私が初めて作った思い出の歌です。『風に乗せて』……」 ~~~~~~~~~~ 隣にいるだけで なぜかあったかい気持ちになるよ こんな時間がいつまでも 続けばいいなって願いをかけたのに もう遅いかもしれないけど 伝えたいことがある 今この青い空に言おう かけがえのない人それはあなただと 今まで言えなかった大切な言葉 いつも いつでも いつまでも ずっと愛してる ~~~~~~~~~~  私はその曲を聞いて愕然とした。 「この曲……どこかで…………」  誰も知らないはずと言っていたが、メロディーと歌詞が間違いなく以前聞いたことがある曲だった。  何回も何回も繰り返して…… (どこだろう…………CM?) (違う……もっと、記憶の奥底で…………)  思い出す前に曲が終わってしまい、MCが始まる。 「お時間が来てしまったようで…………残り1曲となりました」 「今まで色々な曲を作ってきましたが、次の曲は私がアーティスト人生の中で最後に作った歌です」 「私が音楽活動をしていて伝えたかったことが、この曲に詰まっていると思います」 「それでは最後に聞いて下さい」 「…………『あなた』…………」  思い出のオルゴールを開けるような、切ないメロディーから始まる伴奏……  その曲を聞きながら、私はなぜか自分が初めて作曲をした時の事を思い出していた。  走馬灯のように次から次へと光景が浮かんでくる……  まるで一本の映画のハイライトのよう。  私しか知らない秘密の話……  日記には書いていない、  忘れたくなかった今までの人生が……
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