○追憶編③~文化祭~

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 ドキドキしながらステージに上がると思ったよりも落ち着いていて…… (お客さんの顔って意外とよく見えるんだ)と変に冷静な自分がいた。 「……ワン……トゥ……ワン、トゥ、スリー、フォー!!」  それからは無我夢中でよく覚えていない。  ただ練習の時には感じなかった、お客さんが聞いてくれているという喜びを初めて知ったせいだろうか……  今まで弾いてきたどの瞬間よりも楽しくて、リズムやハーモニーが心地よくて、ワクワクした。  私は本番で一度も間違えずにキーボードを弾けた。  こんなに楽しく音楽を奏でられたのは初めてだった。  終わった後、舞台袖の暗闇の中で、みんなとハイタッチをしながら私は笑っていた。 「やっぱり……音楽って楽しいね!」  それからは新しい目標が生まれた。  通学電車が一緒の澪ちゃんとの帰り道、 「私もいつか歌を作って……それが色んな人に届くといいなぁ」と呟くと、 「歌……作れるの?」と目を輝かせる澪ちゃん。  私が「実は……」と以前優秀賞をとって雑誌に載ったことを伝えると、澪ちゃんは自分のことのように喜んでくれた。 「聞かせて聞かせて~」  私は次の日、音楽室のピアノで『空を見上げて』を演奏した。 「前に弾いてたキレイな曲、春香が作ったやつだったんだ……自分で曲が作れるなんてすごいじゃん! もっと聞きたい!! 新曲とかは?」 「……今はないけど頑張ってみるよ。出来たら歌ってくれる?」  誰か聞いてくれる人がいる……楽しみに待っていてくれる人がいる……という喜びは、魔法の呪文みたいだった。  私は文化祭をきっかけに軽音楽部メンバーとも仲良くなり、正式に部として認められた後の活動もとても楽しかった。 「将来はシンガーソングライターになりたい」とあるメンバーは語っていたが、私は歌が下手なので曲を作る方……映画やドラマのBGMなども作る作曲家になりたいと思った。  新しい曲を作ろうという意欲がどんどん湧き、将来作曲家になりたいという夢ができた私は、高校2年の春、ある挑戦をすることを決意した。
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