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呆れたように長い溜め息をつく母。
「…………だいたい音大なんて昔から音楽をやっていたり、一握りの才能がある人が行く所よ? あなたピアノ全然出来ないじゃない」
「じゃあ……もしそのコンクールで賞に選ばれたら音大受験してもいい? ダメなら諦めるから……」
「結果が出るまでの間、夏期講習を受けるだけでも……お願いします!!」
かなりハードな交換条件を出してしまい、自分でもまずいと思ったが、なんとかOKを貰えて安堵した。
夏休み……憧れの音大の夏期講習の日。
ドキドキしながら音大の門をくぐり、広い講義室の椅子に座る。
始まったのは、実際の受験問題に合わせた専門的な講習だった。
ピアノで弾いた和音が何の音かという聴音、音楽の基礎知識である楽典、初めて見た楽譜をいきなり歌う新曲試唱……
絶対音感も楽譜知識もまるでない私にとって戸惑いの連続の毎日だった。
「コードや和音ってこんなにいっぱい……全部覚えるの?……全然分からない」
あっという間に最終日になり、講習担当の先生が最後の言葉としてこうまとめていた。
「音楽は音が楽しいと書きます。音楽がある世界に住んでいるというのは、とても幸せなことです」
「音楽を奏でる上で大切なのは、まず自分が楽しむこと。決して音が苦になってはいけません。これからもそれを忘れないで下さい」
その言葉を聞きながら、私はなぜか涙が出そうになり、忘れないよう深く心に刻んだ。
そして2学期になったある日、
全国音楽振興会からコンクールについての封筒が送られてきた。
私はドキドキしながら封筒を開けた。
(音大受験がかかってるんです……お願いします)
「せ~のっ……???」
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