○追憶編①~誰も知らないはずの歌~

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○追憶編①~誰も知らないはずの歌~

人生というのは、まるで一本の長い長い映画のようだ。 必ず結末があり、誰にでも終わりが訪れる。 「人生も見たい場面に巻き戻せたり、お気に入りの場面を切り取って、違う場所に保存できたらいいのに……」  公園のベンチで呟く独り言。  誰も聞いていないのが唯一の救いだ。 (最近おかしい……)ともっと早くに気付くべきだった。  今日はあの、あり得ない約束の手紙を書いてから8年後の七夕……  前年に偶然見つけた、思い出の日記帳と悠希(はるき)くんのクマのぬいぐるみ。  封印が解けたように流れこんできた記憶と不思議な声……  過去に戻って全てが繋がり、自分の未来を知ったその日から約8ヶ月が経っていた。  私は、年明けから喉に違和感があり、手足がむくんだり、たまに頭痛がすることが続いていた。  それだけではなく、いつもの道で迷ったり、計算や料理に手間取ったり、人の名前が出てこない……など生活をしていて困ることが時々あった。  最近それが特にひどくなり、何をするにもすぐにメモを取らないと忘れてしまう自分に妙な不安を感じ、先月ある病院に行った。 (大したことないだろう)と検査結果だけ聞いて早く帰ろうとしていたが……  年配の医師に検査用紙を見せられながら 「最近の症状は甲状腺機能低下症によるもので、若年性認知症も併発している可能性がある」と告げられた。 「忘れたくないなぁ……」  私は、(今見た景色もすぐに忘れてしまうのだろうか)と目の前で遊ぶ子供や犬達を呆然と眺めていた。 「子供がまだ小さいんだけどな……」 「迷惑かけたくないんだけどな……」  呟いた独り言が砂時計のように消える。 「家事や仕事……できなくなるのかな……」 「…………約束もあるのに…………」  目の前の景色が何かで歪んでゆく。 「…………全部忘れちゃうのかな?……」  全てを諦めようとしたその時、  誰かが歌っている声がした。  路上ライブだろうか?  キーボードの音色と歌声のハーモニーが切なさに満ちていて、そのフレーズはどこか懐かしい感じがした。  曲の終わりと共に聴衆の大きな拍手の音が聞こえる。  私は引き寄せられるように音のする方に歩き出していた。
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