窓ガラスのキャンバス

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何重にも失礼な発言をするこの男を私はじっとり睨んだ。 「芍薬や牡丹だって綺麗だよ。あと私も好きじゃないけど、派手な化粧ゴテゴテ女にも需要はあるんだから、外でその失礼発言は絶対しないでよ?」 「いや、たぶんお前の発言の方がだいぶ失礼だぞ。百合でも芍薬でも牡丹でもないくせに」 「悪かったな、美人じゃなくて」 「いいじゃんか、美人じゃなくても。俺がいいんだから」 不意にさらりと言ってのけるから、私の顔にぶわりと熱が集中した。 「さて他には…」 と、人の気も知らないでなにか考える素振りをした後、彼をじとっと睨んでいた私と目が合った。しかも合った目線が逸らされない。さっきの今でなんだ、と困惑する私を他所に、思いついたと言わんばかりにまた黙々と窓に絵を描く。たぶん、これは人だろう。 「それはだれ?」 「真白(ましろ)」 「私かい。あ、もしかして、さっきから白鯨とかマシュマロとか白いものを描いてたの?」 「そう。曇ったこの白を活かそうと思ってな」 「私はただ名前に白がつくだけだけど…」 肩までの短い髪、制服のリボン、スカートはご丁寧にチェックを入れている。私の描いた棒人間と違い、二頭身のキャラクターのように描かれている。 「やっぱり絵、上手いよね」 「俺を誰だと思ってる」 「昔もよく描いてたもんね。そういえば、ゆうちゃんの教科書も腹立つほど上手いらくがきとかあったね」 「福沢諭吉の模写とか?」 「教科書の写真や絵にネコ耳とか髭とか付け足すらくがきは見たことあるけど、まさか模写した人物にネコ耳や髭足す人がいると思わなかったよ」 「お前のにも描いてやろうか。『吾輩は猫である』ってセリフも足してやるぞ」 「いらん」 ははは、と笑いながら彼は隣にもう一人、同じような二頭身キャラのような人を描いていく。 「…それはだれ?」 「んー…俺」 「着てるのは制服?」 ズボンには女子のスカート同様、チェックが入っている。 「そう。いいだろ?」 「…いいんじゃない?」 私が答えると、彼は嬉しそうに歯を見せて笑った。 「あ、こんなのどうだ?」 たくさん絵を描きこんでしまったものだから、さらに隣の窓に移動した。先程の二頭身キャラの私に今度はドレスを着せた。そして、自分の方にはタキシード。描き終えると、ニコニコしながら私を見た。イタズラ大好きな小僧のような笑顔だ。
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