4.思っていたより

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スタジオでの練習の時は 大体いつも ハルトが一番に到着して 準備している。 『こんばんは~!』 2番目に来たのは郁。 これも だいたい いつものこと。 郁はカバンを部屋の隅に置くと すぐに手伝いを始めた。 『これも動かす?』 『うん。でもそれ重いから 郁ちゃんには 無理だよ。貸して。』 『わ。ホントに重い。お願いします。 ね、向井くんって 普段は 無口な人?』 『なに、突然(笑)。』 『ん~。何回か 向井くんを見掛けたんだけど。』 『え、どこで?』 『駅の本屋さんとか、CD屋さんとか。』 『声掛けてよ。』 『えー。だってどっちも女の人と一緒だったし。』 『あー。』 見られてたか。 いや、別に見られても困らないけど ちょっとバツが悪い。 言い訳するのも おかしいよな。 なんて言おうか 考えてる内に 郁が言葉を続けた。 『それでね、その時の向井くんが きっと 普段の向井くんなんだろうなぁって思ったの。 バンドに勧誘してくれてたり 今も お客様扱いしてくれてるから いつも無理してくれてたかなって。ごめんね。』 予想外の言葉に 一瞬驚いた。 ……責められるんじゃないかと構えていた分 力が抜けて 笑ってしまった。 『謝ることないじゃん。』 『ふふふ。そっか。ごめんねは変だね。 そろそろお客様扱いは おしまいにして メンバー扱いしてくれると嬉しいです。』 『具体的には?』 『2人の時に 無言で大丈夫だよ。 冷たい感じで(笑)。』 『ぷっ(笑)。 やっぱり変なコ。』 『え!やっぱりって ずっと 私、変なコって思われてるの?』 『郁ちゃん、面白いよな。 でも、うん。今度から冷たくする。』 ……なんだか 準備の間 ずっと笑われてるけど 今日のは ホントの笑顔っぽい。 この前までときどき感じてた 作り笑顔じゃない。 このコ 思ってたより 話しやすい。 この人 思ってたより 話しやすい。 ハルトも郁も お互い そう感じ この日以来 ぐっと距離が縮まった。
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