6.立候補

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二学期が始まり また 定期的な スタジオ練習を再開した。 9月最初の練習の日。 思い返せば この日の 郁ちゃんの態度は どこか おかしかった。 『郁ちゃん、それ。』 郁の肩に 糸くずが付いていたので 声を掛けながら 取ろうと 手を伸ばすと ビクッと 身体を強ばらせた。 『ごめん、ビックリさせた?』 『ううん、大丈夫。ありがと~。』 あれ。気のせいだったか? その後は 普段と変わらない 様子の郁だったので この時は たいして気に留めていなかった。 その次の練習の時。 まだ暑いのに 郁は パーカーを着ていて オレは不思議に思った。 そういえば 前回も 長袖で来て、 練習中も 脱がなかったな。 クーラーが強くて寒いのかと 温度 上げようか?って聞いたら 大丈夫。って やんわり 断られたんだった。 一つ気になり出すと色々気になり、 注意深く 観察してみる。 うん。元気が無いのは確かだ。 それに 道を歩くときや 帰りの電車で 時々 何かに怯えている様に 動きが止まるんだよな。 なんだ? あ……? 『それ、どうした?』 エスカレーターの手すりを持つ郁の袖口から 青アザを見つけ 何も考えずに 聞いてしまった。 『あ……えっと。 ちょっと 転んで打っちゃって。』 手首を隠しながら答える郁の目は泳ぎ 明らかに 動揺していた。
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