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「あっ、あの、わたし、こっちらに用がありまして」
声が裏返っている。
挙動不審子さんになっている。
「あのっ。それでは、これで」
ギギギギギ……と、音が立つような不自然さで、会釈した。彼の家の手前の道を、右へ曲がろうとした。
「そっちは行き止まりだ」
「あっ、そうでしたか。慣れない道なので間違えた、かな」
おたおたしながらも、彼と会話できている! やったぜ。というどうしようもない感動に、わたしは苛まれていた。
「おまえ、俺の跡を着けてきたんだろ?」
「なっななな何をお言いで」
「誤魔化すな。わかってるんだ。おまえが俺を監視していたことなんて、お見通しなんだよ」
「へっ?」
思わず、間の抜けた声が出た。
監視されていたのはわたしで。
彼を見ていたわたしの眼差しは、憧憬とか恋慕とかいうもののはず。
恋愛初心者のわたし。
恋のターゲットに送る目線すら。
まともに送れていなかった?
ぼう然となる。
彼に何を言えばいいのかも思いつかない。
だから。願わくば。
このまま、わたしを無視してください。
路上に放置、うっちゃってください。
目の前の彼。
「はーっ」
あからさまな溜め息をついた。
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