爆走は乙女のしるし

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「それで着いてきて、しばらく俺の家を見張っているつもりだったのか」 「めっそうもない!」  お代官さまに尋問される町民となる。  極めて女の子らしくない返しを思わずしてしまった、わたし。パブロフの犬のような反応をした自分に頭を抱え、顔を火照らせた。  回れ右して、ずらかろうとしたときだった。  彼の家の玄関ドアが開いた。 「さっちゃん、何、家の真ん前で突っ立ってんのよ。お肉、買ってきたでしょうね?」  二十歳くらいの女性が顔を出してきた。 「呼び捨てでいいから、俺のことはサトシと呼べと言ってるだろが」 「なーにナマイキな口、利いてんのよ。……あら、彼女? わたしに気づかれなかったなんて初めてじゃない? んー、理由がわかる気もするけど。わたし的には合格だわ。さあ、上がって」 「こいつは彼女なんかじゃねえよ。俺につきまとってるだけだ」 「おや、ストーカーなんだ。よかったね、女の子が周りをうろついてくれて。さっちゃん評判悪いってウワサ、聞いているからさ」 「誰のせいだ!」  ムッとした顔つきでブリ高のS王子が、サトシのさっちゃんが姉らしき人に怒った。 「おい、行くぞ」  買ってきた肉を姉と思われる人に渡すと、アゴ先でわたしをどこかに誘う。  たぶん駅。それでもいい。  だって、二人で歩いている。  この思い出だけでご飯三杯はいける。  繰り返し繰り返し、わたしは思い出す。  たとえ彼がそっぽ向いていようが。  思い出は美化できるから。  あれ?  駅って、こっちだったっけ。
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