こんなことって、あるんだ

3/8
前へ
/18ページ
次へ
 わたしに熱い想いを押しつけるように。  彼は電車の中へと去っていった。  発車の音楽がなる。  ドアが閉まる。  各駅停車。普通電車の中の彼。  向こう側のドア付近で立っている。  電車がゆるやかに走り出す。  彼の顔。もう見えない。  しまった。  彼に見惚れていないで、一緒に乗って行けばよかった。  そんなことに気づけたら、わたしはホームに立ち尽くすなど、してない。  経験値が不足している……ほとんどないわたしに、即時対応などという高度なワザは、できない。思いつきもしない。  だけど、大丈夫。  電車の窓から、道を歩いている彼を見つけたわけではない。わたしが下校時に使っているホームで見かけた。時間もわかっている。  明日は三十分前から待ってみよう。  一時間。持ち続けてみる。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加