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細く伸びる影は、まるでその男の本性を現しているかのように皆人に重なった。伸ばされた指先がねっとりと頬を撫でる。男の口元は弧を描き三日月を作ってはいたが、いつもはサングラスで覆われて見えない瞳は、今は月光を映して赤く輝いていた。不吉とすら思えるその濃い赤はルビーのように美しく、しかしやはり禍々しい。
皆人は目を閉じてその光を遮り、ただ頬を這う指先の感触だけを感じた。鼓膜を犯す彼の声にも、皆人の心は犯されることはなかった。しかし、彼の体温だけは触れた場所から少しずつ皆人を侵食していく。
「皆人、今、どういう気持ち?」
どろりと濁った悪魔の声を聞き流し、皆人は笑った。
「さぁ、私はいつだって、貴方の下僕ですから。心動かされることなんてありませんよ」
そう告げると、男はクツクツと喉の奥で笑って、嘘つき、と耳元で囁いた。半分は本当なのに、と皆人は心の中で異議を唱えたものの、それを口に出すことはなかった。皆人は、この若い悪魔を愛することを決めていた。ただし、この世で二番目に。
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