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「隷獣は、頭脳も見た目もほとんど人と変わらないのに、人に飼われなければ生きていけない、しかもその相手を選ぶことすらできないなんて」
「そんな中でも、幸せだったらいいと思うんだけどなぁ」
そう首を傾げるクロードも、買い手がつかず処分寸前だったところを団長に助けられていると聞いた。にも関わらず、人と生きることを抵抗なく受け入れている。なんという恐ろしい話だろうか、それが当たり前になっている現状に皆人は身震いした。
「……貴方は本当に阿呆ですね」
辛辣に言う。最近は引き取られた相手に随分大事にされているのか、血色もいいし怪我もない。服装も整っている。けれど、相変わらず人の愛を理解しているとは言い難いクロードに、同情も覚えていた。
団体にいる間、皆人は、クロードに決して手を伸ばさなかった。それは、彼がクロードを救うことはできないと分かっていたからだ。それどころか、皆人は自らが誰ひとり救うことができないであろうことを認識していた。だから、皆人はその手を伸ばさない。
「……とりあえず、私はともかく、絶対にあの人にシエラの話はしないように。地雷ですから」
はーい、と子供のような返事をして、クロードは皆人に背を向けた。皆人はその年甲斐のない様子に眉を寄せてその背を見送った。そして、自らが先ほど口にした地雷原に踏み込まねばならぬことを思った。すぅと息を吸い込み、気合を入れる。きゅっと口元を引き結び、目的のドアに手をかけた。ドアの奥、不機嫌だろう相手のことを思うと、皆人の唇が歪んだ。覚悟を決めて中に入れば、足を組んで外を眺める青年が一人。その背に生えた黒い皮膜の翼は、一目で彼がなんの動物かを知らしめた。
「皆人?」
「えぇ、そうですよ」
視線も合わせずに尋ねる彼に、皆人は頷いた。彼の背中には、不機嫌が滲み出ている。わかっていたこととは言え、溜息を吐きたくなって吐き出しかけた息を喉元で抑え込む。
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