夢見る人の話

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 差し込む朝日に胸を張り、糊でぴしっとしたシャツを着て、ダークグレーのスーツを着込む。ネクタイをきゅっと締めて、鏡の中で営業スマイルを確認。それが皆人の朝だった。毎朝、定時に起きて同じことをする、完全にルーチンワーク。ほとんど寝るために存在する部屋は生活感がなく、ほぼシャツとスーツしか入っていないタンスとベッド、そして極少数の生活用品しか置いていなかった。冷蔵庫の中にもミネラルォーターのみ。強いて言うなら、机に置かれた灰皿の中に残る吸殻と、部屋に漂う煙草の香りだけが皆人がそこで生活している証となっていた。 「さて本日は、本部へ行って仕事の割り振りをしてから、私も勧誘ですかね」  髪の毛を整えながら、システム手帳で予定を確認する。愛護団体の団長であるセレスはカリスマ性だけの存在であり、実質の管理などを一手に担っているのは皆人だった。  本来は、他にも管理に携わっているものがいれば仕事は減るのだが、団員の大半が、勧誘活動の際に元飼い主や、管理課に捕獲される、もしくはペット登録されていないが為に理不尽な暴力に晒され負傷するため長続きするものがいないのだった。団員の中で長く過ごしているものは、たいてい人格もしくは行動に難有りだ。 「……まだ、しばらく私の仕事は減りませんね」  パタンと手帳を閉じて、立ち上がった。くらり、と立ちくらみが襲う。目の前が暗くなった。睡眠不足と過労が祟っている、と目元を軽く押さえながら耐え忍ぶ。皆人が仕事をしなければ立ち行かないのだ。
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