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本部に来れば、最近保護された隷獣たちがおどおどと周りを見渡している姿によく出会う。彼らは、住む場所もないため、落ち着くまで本部で住まわせるのが常だった。だいたい一月もしたらもう少しプライベートが確保された場所に移るため、そこに住まう隷獣の顔と名前を皆人が一致させることほとんどと言っていい程なかった。
強いて言うなら、彼らを使うために、彼らの個人情報を一部インプットしてはある。しかし、それも管理課に捕獲されるまでの記号以外の何物でもなかった。
保護されたばかりの彼らの目線は大概怯え、恐怖、警戒、怒りを孕んでいる。そういった負の感情が渦巻く中を、舌打ちをしそうになりながら毎朝皆人は通り抜けることになる。不快ではあるものの、日常化してしまったそれをいちいち意識化する暇もなく日々は過ぎていく。しかし、その中にも、異質な者が何人かいる。その内一人が目の前から歩いてきて皆人は眉根を寄せた。相手も、顔をあげて皆人の存在に気付いた途端あからさまに嫌そうな顔をした。その頭についた銀の耳も、ピンとたって警戒の色を濃くしている。
「……テオドロスさん、おはようございます」
「よぉ」
一言だけ言うと、ふい、と視線が逸らされた。その対応の原因は皆人にあるためどうこう思うことはなかったが、優秀な団員と連携がうまく取れないこと自体は皆人にとっては大きな損失だった。
「昨日も新しい子を保護してきて下さったそうですね、さすが優秀な団員です」
愛想笑いを作って話かけると、彼の冷たいアイスブルーが判りやすく曇る。
「どうせ、数日で消えるだろ」
ぽつり、と呟かれる言葉に熱はないが、その顔に少しだけ陰りが見える。そもそも、彼は主人の迷惑にならない為にこの愛護団体へと自ら足を運んだため、他の者のような切羽詰まった必死さがない代わりに、どこか投げやりで影を背負った雰囲気を纏わりつかせている。
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