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甘ったるい喋りも相まって、耳元がくすぐったく感じた。
「あ、はい。もしもし」
「お名前は何ですか?」
「村上拓海、です。えーっと、ミーナ…さん?」
「はい、そうです。あれ?何で私の名前分かるんだろう…おかしいなー…」
「いや、だって画面に名前表示されてたし…」
「へー…そっちの世界の電話って面白いんですね」
この電話何かおかしい。
いきなり名前を聞いてきた時点で妙な違和感があった。相手は俺のことを全く知らずに電話をかけている。やっぱりイタズラ電話なのか。まずいな、馬鹿正直に本名を答えちまったぞ俺。可愛らしい声にうまいこと警戒心を緩まされた。
電話の向こう側からペラペラと本をめくるような音が微かに聞こえてくる。
「近くに人は居ないみたいですね。あ、靴履いてる。左手に持ってる白い袋の中身は。食べ物と飲み物?じゃあ、送っても大丈夫かな」
言葉の意味を噛み砕いた直後に背筋が凍った。見られてる。今こいつに。とっさに振り返るが、そこは周りを枯れた畑に囲まれた一本道。車のヘッドランプも一切見えない。あるのは暗闇の中にポツンと立つ電柱と街灯だけ。
この電話、切らないとまずい。そう思い携帯のボタンを押そうとした。
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