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森の中の女の子
木漏れ日の光で目が覚めた。かすかに吹いた風に乗って生きた木の香りが届く。手に土と草の感触がした。体を起こして見渡しても人工物が見当たらない。木に囲まれた空間に俺はいた。どこかで小鳥が鳴いている。
記憶を掘り起こしてみた。真夜中にコンビニへ行って、帰る途中で女の子からイタズラ電話がかかってきて…。手にはその時買い物をしたビニール袋がちゃんとある。夢を見ていたわけじゃない。確か倒れて死にそうになったはず…。どうなってるんだ。時間も場所も、紙を真っ二つに引き裂いたみたいに完全に断絶していた。体はむしろ軽いと感じる。風邪が治った時の長い睡眠の後みたいに…。俺は死んだのか?この森は人生が終わった奴が辿り着く場所なんだろうか。
その時、近くの木の陰に誰かがいるのがチラッと見えた。俺から身を隠すようにして、何やらボソボソ呟いている。女の子だと気づいた。その瞬間、その子は俺の前に飛び出し、広げた右手を真っ直ぐこちらに向けて叫んだ。
「せい!」
ボフッ……
枕をベッドに叩きつけた程度の爆発音と共に、その子の手の平からプスプスと小さな煙が上がった。
沈黙。
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