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僕が巽兄さんの事を好きになってしまったのがいけないのだ。ただ、巽兄さんは僕の気持ちに応えてくれただけなのだ。
それを言おうとすると、さえぎるように巽兄さんは
「兎に角、店が終わったらきちんと説明する。」
そう言った。
母さんは、溜息を一つついてから「今日、幸い予約のお客様は居ないから臨時休業にするわ。父さん連れてくるから、そこに座って待ってて。」とダイニングテーブルセットを指さした。
母さんが店に戻ると巽兄さんは僕の頭を軽く数度撫で
「大丈夫だよ。」
と言った。
◆
毎日食卓を囲む様に僕の隣には巽兄さん、向かい側には父さんと母さんがいる。
けれども、いつものような和やかさは無い。
僕は、何とかしなくちゃと口を開こうとするが金魚の様にパクパクと口が動くだけだった。僕の身勝手な思いの所為でこんな事になってしまったのにどうする事も出来ない。
せめて、思っている事は言いたいと思った。
「ごめんなさい。僕が、僕が巽兄さんを好きになったからいけないんです。」
俯いてしまったら、隣に居た巽兄さんが僕の手をぎゅっと握ってくれた。
「父さんとの約束を破った事は謝る。
でも、空と付き合い始めた事について謝るつもりは一切ない。」
良く通る声で巽兄さんは言った。
「約束?」
さっき、母さんも言っていたその単語に心当たりが全くなく訊ねた。
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