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その日の事を考えただけで涙があふれそうだ。
忘れないと、せめて隠し通さないといけない感情だって事は分かってる。
だけど、この星を見ているこの瞬間だけはあの時の幸せにひたらせてください。
手の上に乗る星、これだけあれば僕は巽さんの優しさを思い出せるし、もう少ししてこの家を出ないといけなくなっても、この宝物さえあれば独りぼっちでも頑張れる。そう思うんだ。
◆
「ただいまー。」
玄関から機嫌の良さそうな声がした。
巽兄さんが帰って来たようで、2階の自室から慌てて玄関へ向かった。
「お帰りなさい。」
巽兄さんはお酒を飲んできた様で少し顔が赤いし、上機嫌だ。
「そらー、こんな遅くまで起きてちゃ駄目だぞ。」
靴を脱いで僕の前まで来た巽兄さんは僕の頭を撫でながら優しく言った。
「お水飲みますか?」
僕が聞くと、ニコニコ笑って「そらはいい子だな。」と巽兄さんは言った。
最近はそんな風に言われる事も無くなっていたので恥ずかしくなって俯いた。
きっと僕の顔は赤くなっている事だろう。
「そら、ホントお前可愛いな。」
そういいながら巽兄さんは僕をぎゅーっと抱きしめた。
突然の事にどうしたらいいのか分からず真っ赤になりながらただただ、じっとしている事しか出来なかった。
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