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「ねーねー、保健委員でさハーフの男子っている?」
森山の制服の裾を、くいっと奈津美がひっぱる。
奈津美の大きく濡れたように艶やかな瞳が、真っ直ぐ森山に向けられる。満更でもない顔つきで、森山が考え込む。こういう無意識の小技が男を惑わすのだ。
「ハーフか……どこの国のハーフ?」
森山が奈津美に訊ねる。
奈津美が催促するように私へ視線を投げた。
だけど、
「え、白人としか」
昨日出会ったばかりで知ってるわけがない。
「適当~!」
「仕方ないでしょ、昨日保健室でちょっと喋っただけだし」
「昨日?」
森山が私を見る。
「あ、うん。昨日」
「じゃあ三年だな。養護教諭の富永先生が、最近木曜日だけ地域のカンファレンスとやらに参加してて昼から不在なんだよ。だから毎週木曜日は、三年の保健委員が放課後の保健室を代行してるんだ」
「さ、三年!?」
マズい。
てっきり同学年だと思い込んで、完璧にやってしまった。冷や汗がどっと額から噴き出る。
数々のタメ口、更に不躾な態度。
おまけに、彼は千葉先輩の知り合いらしき発言をしていたじゃないか。
蘇る失態に血の気が一気に引いていく。
「奈津美、ちょっと……」
弁当箱の隅に残った唐揚げを慌てて口に放り込む。〝ほぼだし巻きだけ弁当〟じゃ全然エネルギーが足りないけど。そんな悠長なことは言ってられない!
「き、北校舎、付き合ってぇー!」
まだ弁当を食べている最中の奈津美の腕を掴み、半ば強引に廊下へと引っ張りだす。奈津美が何事かと喚いているが、それどころじゃない。
一刻も早く、昨日の保健委員の彼にお詫びを入れなければ。こうなれば土下座覚悟で乗り込むしかない。私の変態じみた寝言が千葉先輩の耳に入る前に、何としても先手を打たなければっ!
あぁ、神様。
昨日の発言、まだ取り消せるでしょうか?
もし間に合うのなら、どうか彼の記憶を消せる能力を、私にお与えくださいませ!
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