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「ちょっとぉー! 私まだご飯、途中なんだけど!」
ぶつぶつ文句を零す奈津美の腕を引きながら、階段を駆け下りる。
「ごめん、後で何か奢るし。とにかく付き合って」
「もぅ……仕方ないわね。じゃあスタバのフラペチーノで手を打つ」
艶々の色っぽい唇を尖らせながら、奈津美が妥協案を寄越してくる。
「お任せください」
なんだかんだと言いながら、ちゃんと付き合ってくれる、奈津美のこういう優しいところが大好きなんだな。
北校舎に繋がる渡り廊下を二人で突き進んでいると、パンと何かが弾けたような音に、驚いて振り返る。中庭の隅に、数人生徒が集まっていた。
「この疫病神!」
怒りを孕んだ女性の声が、中庭から校舎を伝って響き渡る。その怒声に驚いて足を止めた私と奈津美は、視界に入った光景に呆然と立ち竦んだ。
「二度と瑞穂に近づかないで!」
足が底なし沼に嵌ったみたいに、ずぶずぶと沈んでいく。部外者の私たちは、すぐにでも立ち去るべきなのに。その場から動くことが出来なかったのは、叫んだ女性の隣で、同じ陸上部の瑞穂先輩が泣いていたからだろうか。
それとも。
その向かい側にいたのが、昨日の、あの保健委員だったからだろうか。
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