クジラ雲

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結局、あのまま教室に引き返した私たちは、もやもやとした気持ちを抱えたまま、デザートのポッキーを頬張っていた。 教室内では昼食を食べ終えた生徒達が、小さなグループを作り、あちこちで楽しそうに喋ったり漫画を読んだり。まるで先ほど見たことが幻だったかのように、そこにはいつもと変わらない、穏やかな日常があった。 「そういや、さっきさ」 お茶を飲みこみ、奈津美が二袋目を開ける。 「瑞穂先輩、泣いてたよね……」 「だよね」 やっぱり、見間違いじゃなかった。 「なんで瑞穂先輩が泣いてたわけ? 莉子の言ってた保健委員と、どういう関係なんだろ。付き合ってたのかな?」 「同じ三年生だから、何かトラブルとかあったのかなぁ……」 瑞穂先輩は陸上部の中距離で毎年国体上位を勝ち取るほど、才能もあるし努力家。おまけに美人なのに謙虚で、後輩の面倒見も良く、部員全員から慕われていると言っても過言ではない。 そんな先輩が何かトラブルを起こすなんて考え難い。 それならやっぱり彼が瑞穂先輩に何かしたってこと? 『疫病神』 彼に向けて発せられた言葉が、胸の奥底でざわざわ蠢く。耳の奥で不快に響く。 あんな言い方されるなんて。一体何をしたと言うんだろうか。 「でも、意外だなぁ。瑞穂先輩でも泣くんだね」 奈津美がため息まじりに呟く。 「うん。初めて見たかも」 大きな大会で負けてしまっても、どんなに辛い練習でも、決して涙を見せなかったのに。そんな瑞穂先輩が泣いていたなんて、きっと余程の事に違いない。
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