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「魚住、背中まだ痛む?」
グラウンド脇でストレッチをする私の頭に、大きな手の平がポンと触れる。
平気でこういうスキンシップをするものだから、近い将来、千葉ファンに暗殺されるのではないだろうかと、気が気でない。
「いえ、もうへっちゃらですよ」
「なら良かった」
相変わらず新緑の様な空気を纏いながら、千葉先輩が私の隣に腰を下ろし、ストレッチを始める。
隣に来ていただけるのは嬉しいけど、物陰から送られる幾多の鋭い視線に、八つ裂きにされそうだ。
長い手足、サラサラの黒髪、部員全員への細やかな気配り。そして時折見せる、無意識の色気。
千葉先輩が気づいているのかはわからないけど、陸上部のみならず、他の部、他の学年にまでファン層は広がり、その活動も本格化してきている。
私が入部した当初は、まだ顔にあどけなさもあり、「可愛い」と形容されていた。
それがたった半年程度で背は十数センチ伸び、顔は大人の色気を帯び、性格はより紳士的になった。
まさに、神の領域で、もはや憧れの先なんてものは想像すら出来ない。なんと罪作りな人なのだ。
「千葉くん」
背後から凜とした声が聞こえ、振り向くとすらっと長く引き締まった脚が目の前で輝きを放っていた。
「小山、どうかした?」
ストレッチを終えた瑞穂先輩が立っていた。
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