クジラ雲

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先週見かけた姿が脳裏に蘇り、気まずさに視線を逸らす。 「千葉くん。ハイジャンの子、何人か貸して欲しいんだけど」 隣の千葉先輩がよいしょ、と立ち上がる。 「何で?」 「多田先生に体育館にある不用品を倉庫に移してくれって頼まれちゃって……」 「例の(・・)やつ?」 千葉先輩が悩ましげな視線を瑞穂先輩に送っている。 「そう、例のやつ」 訳あり顔で、瑞穂先輩も頷く。 例のやつ、とは何ですか? 二人の顔を交互に窺い見る。 腰に手を当て、千葉先輩は戦前の軍師さながら、険しい顔をしている。 「分かった、力のある子がいいよな。じゃあ男子2人と……あれ、岸田(きしだ)は?」 千葉先輩がグラウンドをキョロキョロ見回す。 岸田とは、奈津美の事だ。 「あ、奈津美は習い事で、今日は休みなんです」 奈津美も例の(・・)習い事だ。 一体何を目指しているのか。 「うわー、残念。大活躍できたのに」 千葉先輩が天を仰ぎながら嘆いている。 奈津美が大活躍……一体何が始まるのだろう。漠然とした不安が込み上げてくる。 「じゃあ俺が行くまで、代わりに魚住、頼んだ」 突然肩を叩かれて、ビクリと体が跳ねる。 「えっ、私ですか!?」 やっぱり、そうきちゃいますか。 「うん。ドンマイ」 ファイトじゃなくて、何故ドンマイ? 不穏な気配しか感じられない。 だけど、千葉先輩の笑顔が眩しすぎて、私はまんまと罠に嵌った。 「任せて下さい!」
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