クジラ雲

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「うへ~」 体育館倉庫に入るなり、ハイジャンで同じ二年の杉村が素っ頓狂な声を出す。 「なんだよ、この段ボールの山は……」 倉庫内を埋め尽くさんばかりの、ダンボールの山が待ち構えていた。これは、どう見ても私は戦力外でしょ。 「頑張れ、男共よ……」 「ごめんね、こんな重労働、頼んじゃって」 瑞穂先輩が私と杉村の肩を抱えるように掴む。いい香りがふんわり漂い、同性なのにドキリとしてしまう。 「任せて下さい!」 ここにも私同様、色欲の罠に嵌った馬鹿が一人。鼻の穴を膨らませて、力こぶを披露し始める。 「うげ、変なもの見せないでよ!」 「魚住に見せてねーよ!」 「すごい筋肉だね、杉村くんなら余裕かも。でも無理しないでね、総体控えてるんだし、みんな頼りにしてるんだから」 なんと非の打ち所の無いコメント。 受けた杉村は、すっかり舞い上がっている。 「じゃあ、端のデカイやつから行っちゃいますね~」 杉村が手をかけた段ボールには、上部に『災害用備蓄飲料水』と印字がされている。 全部水だとしたら、とても一人で持てる大きさではない。 「うっしゃあぁー!!」 何の掛け声なのか。漢気を見せたいのか、気合を入れているのか、杉村が叫びながら必死に段ボールを持ち上げようと踏ん張る。 ほんの数センチ、持ち上がってプルプル腕が痙攣している。 「おい、杉村! お前何やってんだよ、一人でそれは無理だろ! おーい、先こっち来てくれー!」 その無謀な様子に気付いた短距離の先輩が、他の短距離の部員を呼ぶ。駆けつけた部員が、続々と杉村の段ボールに群がる。 「せーのっ!」 男三人がかりで、ようやく持ち上がった段ボール。何故これを一人で運べると思ったんだろうか。やっぱり杉村って馬鹿だ。
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