クジラ雲

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「魚住ー、こっち手伝ってくれよ」 杉村に手招きされて、サボり……ではなく、適当に箱詰めしていた小物を一旦置くと、杉村と先輩達のもとへと駆け寄る。 「何入ってんの、これ」 空輸と書かれたシールが貼り付けられた1メートル四方の巨大な段ボールには、『セーフティエアクッション』と書かれている。 「これさ、校長の趣味みたいなもんなんだ」 いつの間にか背後に千葉先輩が立っていた。 「せ、先輩、いつの間に!」 驚きのあまり、距離を取るように飛び退いてしまう。 「え、何その反応。俺……まさかの嫌われてるとか?」 いや、だから色気が、私の脳を溶かすんですよ。 「いやいや、エベレスト並みに尊敬してますよ」 「それ例えになってねーよ」 余計な横槍を杉村が入れる。 「尊敬ねぇ……」 杉村のせいで、千葉先輩の表情が曇っているじゃないか。 「ところで、これが校長の趣味って、どういう事なんすか?」 杉村が段ボールを叩く。 意外にも、軽そうな音が響く。 「あぁ、うちの校長さ、極度の心配性で災害が起こる度に避難グッズやら救助道具をポケットマネーで買ってんだとよ」 説明してくれた短距離の先輩が、やれやれと言った表情で両脇に積まれた段ボールの山を見上げる。 その殆どの側面に、『救助』だったり『災害用』だったり、同じ様な文言がプリントされていた。 そしてその趣味が度を越し、ついに体育館倉庫では入りきらなくなったらしい。 生徒想いなのか、単なる度を越した心配性なのか、その辺りは計りかねるけれど。
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