クジラ雲

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──── 「この学校ってそんな荒れてたっけ?」 周囲を警戒するように、奈津美がキョロキョロ視線を彷徨わせる。 「いやいや、進学校の中じゃ三番目だよ」 偏差値もそこそこで、陸上部が強い。だからこの学校を選んだと言うのに、一体なぜこんな不穏な事件が起きているのか。 門扉には防犯カメラが設置されていて、外部の人間が入り込んでいる可能性は少ないと聞くし、生徒か教師の仕業だと考えるしかなさそうだけど。 「陰でイジメとか起こっててさぁ、その生徒が腹いせに火でも着けてんのかなぁ」 奈津美がぼそりと呟くと、旧校舎の入口前で足を止めた。くすんだ校舎を見上げながら肩を落としている。 「イジメかぁ、どうなんだろ。中学じゃあるまいし、そういうのは無いと思いたいけど……」 言いつつ、中に足を踏み入れる。 ぱっと見では経年劣化が目立つ程ではないけれど、独特の埃っぽさに喉奥を刺激され、たまらず咳払いをした。 「あ……奈津美、あれ」 入ってすぐの柱横に、アルミ枠で囲われた緑色の掲示板が目にとまる。掲示物は数枚貼られていて、その内一枚の下半分が焦げて無くなっていた。 『(はばた)け未来へ』と書かれた大学のオープンキャンパスを告知するポスターだ。 「うわ、本当に燃えてる」
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