クジラ雲

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奈津美が黒く焦げた箇所に人差し指を触れる。 触れた箇所からパラパラと崩れるように焦げたところが剥がれ落ちる。 「でも、すぐ消されたって事だよね」 燃えた跡が中途半端に止まっていて、その不自然さは人為的な手が加わったことを示唆していた。 「聞いた話だけど、毎回ちょうど誰かが通りかかった時に燃えてるらしいよ」 奈津美が焦げたポスターの画鋲を取り外しながら云った。 「それってまるで……」 言い淀む私に、 「消して欲しいって感じだよね」 奈津美が言葉を継いだ。 何か、深い理由でもあるのだろうか。 奈津美と顔を見合わせて、慌ててかぶりを振った。 どんな理由があるにせよ、人命を脅かす危険性は十分にあり得るのだ。同情は禁物だ。 「何か、本当に幽霊出そうだよね」 日当たりが悪いせいなのか、心なしか旧校舎の中だけが冷んやりと感じる。背筋に寒気が走り、持っていた新しいポスターを奈津美に手渡す。 「え、莉子って幽霊見えんの?」 「全然。でも、いつかそういう特殊能力が開花すると信じてる」 「え……あんたそれ、中二病だよ」 「ええ! そ、そうなの!?」 かの有名な中二病。まさかの私も該当者なのか。 これはある意味、流行に乗っていると捉えることも─── 「莉子、もしかして流行の最先端に自分がいるとか思ってない?」 す、鋭い。 「だはは、バレたか」 「バレバレ。どんだけポジティブなの」 「それだけが取り柄なもんで」 取り繕うように笑ってみせると、奈津美が最後の画鋲を掲示板に押し込めながら、神妙な顔を向けた。 「ねぇ、トイレ行きたいんだけど……」
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