クジラ雲

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瑞穂先輩の違和感は、結局あの日限りのものだった。 それ以降はいつも通り、溌剌で清廉とした姿そのもので、あの違和感自体が、そもそも思い過ごしだったのではないだろうか。 そう思える事も出来た。 だけど、時々考えこむような表情を見かけるようになり、部活中何度も保健室の方を見ている事に気がついた。 中庭で見た涙の理由(わけ)も、体育館倉庫で見た憂いに沈んだ瞳も、そしてあの違和感も。 やっぱり、あの保健委員が何か知っているのではないか。そんな気がしてならなかった。 「テスト期間中で部活休みなんだし、行ってきたら? 木曜日でしょ」 教室内のカレンダーを顎で示しながら、器用に片眉を上げて奈津美が息を吐く。 「莉子の良さは勇往邁進(ゆうおうまいしん)。悩むとか、キモいから」 らしくない。それは私が一番分かってる。 あの中庭で見かけたあの人の、人形みたいに光を通さない瞳も。瑞穂先輩の涙も。 きっと私には立ち入れない何かがあって、踏み込んではいけない、絶対の領分なのかも知れない。 それならそれで、仕方ないと思う。 自分に何かを変えられるだけの器量が無い事も、分かっている。 それでも、見ないフリをして平気で笑顔を向けるのは。やっぱり、らしくない。 「うん、行ってくる」
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