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人気の無い廊下を歩く。
上靴が床に擦れて、時折キュッと鳴き声を上げる。
不気味なほど静けさに包まれた放課後は、歩くたび靴底に孤独感を植え付けてくるようだった。
何のためにここを歩いているのか。
何と言って話を切り出すつもりなのか。
とめどなく浮き上がってくる問いかけに、小さくため息を吐き出した。
そんなの、分かるわけない。
学年も違って、部外者で、瑞穂先輩と同じ部活というだけ。ただ一度、保健室で言葉を交わしただけ。
それなのに、この胸の中に広がる杳として掴めない気持ちは何? ただ純粋に瑞穂先輩の事が気がかりなだけ?
──まだキミのことは、手に入れてないんだね
そうだ。きっと初めて出会った日のせいだ。
あんな意味深な事を言われたまま、保健室を出て行ってしまったあの人のせいで、喉奥にずっと魚の骨が引っかかっているみたいなんだ。
飲み込みたいのに、全然入ってこない。
息苦しくて、もがきたくなる。
まさか私───あの人のことが、気になってる?
陽の入りにくい一階の東側にある保健室の周辺は、寥々たる雰囲気が立ち込めていた。
扉上部のガラス部分から爪先立って中を覗く。仄暗い室内に、人の気配は感じられない。
「失礼しまーす」
保健室の扉を開けながら、誰ともなしに声をかける。しんとした室内。やはり返事はなかった。
そしてあの人の姿も、無かった。
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