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富永先生は養護教諭という職種では、かなり珍しい男性の先生。
保健室の先生=女性というイメージが定着しているけれど、男性の養護教諭は貴重な存在らしく、男子生徒の抱える心の問題や素行改善に即戦力になる事から、地域や他の学校との勉強会にも引っ張りダコ。
という噂は、あながち間違ってはいないのかもしれない。
富永先生のデスク前に置かれたホワイトボードには、予定がビッシリと書き込まれていた。
ただ、数ある教師の中でも、こと富永先生は異色中の異色かもしれない。
養護教諭というよりも、「保健室に居座る取立屋」と言った方がしっくりくるほど見た目が怖いのだ。
眼が猛禽類のように鋭い、と言えば分かりやすいだろうか。
重ねて、野暮ったい服装に乱暴な物言い。面倒事が嫌いで、なんでも生徒任せにする。なぜ富永先生が養護教諭になれたのか。資格取得に面接制度というものはないのかと、不思議でならない。
それでも富永先生が好かれるのは、渋い声が素敵なわけでも、眼鏡の奥がミステリアスだからでもない。怖いところは多いけど、本音でビシッと話してくれる数少ない先生だからだろう。
「富永せんせー、いませんよねー」
誰もいない保健室の中を物色する。
やはり木曜日の放課後は、カンファレンスとやらがまだ続いているのか。
ホワイトボードの木曜日には、○印に「カ」と赤字で書かれたマークが書きこまれている。カンファレンスの「カ」、だろうか。
視線をデスクに落とすと一枚の紙切れに目が止まる。ノートを雑に破いただけの、無造作に置かれていた紙。それに触れようと手を伸ばし、そして止まった。
ぱっと視界の霧が晴れた気がした。
その内容にようやく合点がいったからだ。
あの人はきっと、あそこから見ていたんだと。
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