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「それ、やめて欲しい」
「え……と」
握られた手首が、素早く脈打つ。
あの笑顔を見た時みたいに、息が出来なくて、溺れそうになる。
「敬語。やめない?」
掴まれた手首がゆっくり下ろされ、溺れかけた呼吸と共に、するりと解放される。
「で、でも……先輩です」
先輩への敬語は常識。運動部なら尚のこと、嫌でも身に付いて離れない。
「たかが先に生まれただけで、謙ってもらうほど僕は偉くないし、年上だからって横柄な態度を取るのも変だと思わない?」
「それは……」
思う時もある。
「じゃ、決まり。僕と話す時は敬語禁止。それで今回の事は水に流しましょう」
「えぇー! そんな急に……」
「保健室ではタメ口だったけど?」
「うっ」
そうです。前科者です。
何も言える立場じゃございません。
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