クジラ雲

33/36
118人が本棚に入れています
本棚に追加
/219ページ
「それ、やめて欲しい」 「え……と」 握られた手首が、素早く脈打つ。 あの笑顔を見た時みたいに、息が出来なくて、溺れそうになる。 「敬語。やめない?」 掴まれた手首がゆっくり下ろされ、溺れかけた呼吸と共に、するりと解放される。 「で、でも……先輩です」 先輩への敬語は常識。運動部なら尚のこと、嫌でも身に付いて離れない。 「たかが先に生まれただけで、(へりくだ)ってもらうほど僕は偉くないし、年上だからって横柄な態度を取るのも変だと思わない?」 「それは……」 思う時もある。 「じゃ、決まり。僕と話す時は敬語禁止。それで今回の事は水に流しましょう」 「えぇー! そんな急に……」 「保健室ではタメ口だったけど?」 「うっ」 そうです。前科者です。 何も言える立場じゃございません。
/219ページ

最初のコメントを投稿しよう!