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「疫病神ねぇ……」
テーブルの中央に置かれたポテトを奈津美が掴み、長い指で口許へ運ぶ。綺麗なピンク色の唇が開き、サクッと音を立てて口の中へと消えていく。
その動作をボーッと頬杖をついて眺めている。
かれこれ十分ほど。
頭の中はショートしているのだろうか。
「って、このやり取り、もう3回目なんだけど」
「わかってるってば」
彼と話してから二週間。
時々、屋上にいる彼を見かけたり、富永先生が不在の日に保健室で話すこともあった。
会話はたわいの無い学校での出来事や、富永先生の話とか。どれをとっても平凡でありきたりで、それでも話し方から彼の穏やかさや優しさが伝わってくる。だから彼が「疫病神」だと揶揄される理由が分からない。
店員が隣の席に客を案内するのを目で追いながら、ポテトを摘み、無気力に口に運ぶ。
塩辛さが口の中の水分を奪っていく。
「どう言う意味なんだろ……良い意味でない事は明らかだけど、三年の先輩達の中では有名なのかなぁ」
ため息を吐き出す。自分の事をあんな風に言うなんて、一体何があるって言うのだろうか。
少なくとも二年の私たちは、彼の事を見かけた事すら無かった。校舎は別だし、部活にも所属していないように思える。そう考えると、彼に向けられる蔑称は三年生に限定されているのかもしれない。
正面に座る奈津美がメロンソーダを一口飲む。持っていたグラスの底から、無数の泡が浮き上がって弾けている。
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