魚行きて水濁る

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「でもさ、瑞穂先輩もあれから特に変わりないわけだし、中庭で見かけたのも何かの誤解だってこともあるんじゃない? そこまで莉子が気にかけなくてもいいと思うけど」 「そう……だよね」 やっぱり、余計な詮索をするべきじゃないのだろうか。見て見ぬフリをすることも、時には必要なのだろうか。 サクサクと軽い音のするポテトが、何でだか今日は煩わしい。いつもなら奈津美と奪い合いになるのに、お皿のポテトはまだ半分も残っていた。 「ねぇ、私ちょっと気になった事があるんだけど」 右手でポテトを摘み、左手で参考書をめくりながら、奈津美が顔を上げる。 「なに?」 「あの保健委員さ、どっかで見たことがあるんだけど……有名人か何か?」 「え、奈津美も?」 屋上で見た時も、同じような事を感じた。でもどこで見たのか全然思い出せない。 「綺麗な顔だし、もしかしたら雑誌とかで載ってたかな? 地元のスナップ写真の特集とかでさ」 「そうなのかなぁ」 「ま、あんまり深入りしないのが賢明だと思うけどさ」 「うん……分かってるんだけど」 「引けないのが莉子の短所で長所だもんね」 頷けないままアイスティーのストローをまわす。 氷はすっかり溶けて、グラスの下に染みを広げていた。 頭の奥で細胞が壊れて溶けている気がする。 わからない事が多過ぎて、取り込んだ情報が不可解過ぎて、自分が何をしたいのかも分からない。 クジラさん。君は一体何者なの?
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