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「うぅ、違うってばー、ちょっと本気で背中やばいから起こして」
バーを下敷きにして落ちた時の痛みといったら、地味なくせに超絶痛い。硬質なグラスファイバー製のバーが背骨と皮膚にダイレクトにめり込む。これはきっと、ハイジャンする人にしか分からない恐怖だ。
奈津美に差し出したはずの手を、なぜか千葉先輩が握る。
「え、せ、先輩?」
「ほら、保健室行ってきな」
重力なんて無いみたいに、軽々私を引き上げる千葉先輩の大きな手。筋張った腕、浮き上がる血管。
身震いしそうなほどの……エロス。
「魚住、なんか顔も赤くない?」
いや、あなたのせいですよ。
「そういう顔色なんです」
「どんな顔色だよ、すぐ誤魔化すよな、魚住は」
言いつつ、千葉先輩の大きな手の平が私の額に触れる。男らしくて、分厚い手。ぐっと近付く爽やかな顔。
あー、鼻血が出そうなほど、クラクラする。
「わ、ほらやっぱり熱ある!」
いやいや、だからあなたのせいですよ。
あなたの色気が半端なくて、私の脳を溶かしているのです。
だからほら、視界はぐるぐる。世界はぐるぐる。歪んで、回って、真っ白になって───
「キャーッ! 莉子!!」
耳をつんざく奈津美の声。眼前に広がる白い世界。
ここで、私の意識はぷつり。
糸が切れるみたいに途絶えた。
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