魚行きて水濁る

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千葉先輩がフゥーっと息を吐き、グラウンドを蹴る。助走が開始される。スパイクが地面に食い込む。体が弧を描く。跳躍の体勢。踏切る─── ガコンッ 鈍い嫌な音が響く。 バーに乗りかかるように、千葉先輩の体が傾きマットへと倒れこむのが見えて、心臓がギュッと縮み上がる。 「先輩ッ!」 「千葉!」 近くにいた杉村と三年の森塚先輩が駆け寄る。一拍遅れて、私や奈津美も慌ててマットへと全力で向かう。 「クソッ」 千葉先輩の顔が僅かに歪む。脇を森塚先輩に支えられながらマットに座ると、足首を覆うように手をあてがった。 「まさか、足やったのかよ」 顔を強張らせた森塚先輩が、足首を覆った手に視線を落とす。 「ゴメン……重心が崩れた」 「総体の予選控えてんのに、お前何やってんだよ!」 「大した事ないって、予選は絶対出るから」 森塚先輩の肩に置いた手に力を込めて、千葉先輩が立ち上がろうとする。駆け寄り、杉村が脇を抱える。 三人の様子を、固唾を飲んで見守る私と奈津美に、森塚先輩の鋭い視線が向けられた。 「おい! 魚住、ちょっと来い!」 「あ、はいっ」 いや、間違いなく私に鋭く向けられていた。 「莉子……あんた何したのよ」 背中から奈津美が声を潜め訊いてくる。 そんな事言われたって、分かるわけない。 一番動揺しているのは間違いなく私だ。
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