魚行きて水濁る

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手招きされ、森塚先輩の後についてグラウンドの隅へと向かう。体格が良く、日に焼けた森塚先輩の顔は、近くで見ると凄みがある。 いつもは穏やかな気質だから気がつかなかったけど、不機嫌な顔を向けられるとこうも怖いものなのかと身が縮こまる。 「千葉のこと 、杉村と一緒に付き添って保健室に連れてってやってくれ。あと、」 そしてなぜ森塚先輩が不機嫌なのか、なぜグラウンドの隅に私が呼ばれたのか、なぜ鋭い視線が私に向けられていたのか。 それを悟る事なんて、この時の私が出来るわけが無かった。 「絶対にあいつに会わせんな」 「え?」 「先週、保健室の前で一緒にいるの見たんだよ、鯨井と」 「え、鯨井……先輩ですか?」 「知り合いなんだろ?」 「そうですけど……でも、何で」 見て見ぬフリをした方が良かったのかもしれない。 「お前が知る必要はない。とにかく、鯨井にだけは会わせんな。あいつは千葉の()みたいなもんだから」 だって私は、本当に何も知らない、部外者なのだから。
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