119人が本棚に入れています
本棚に追加
不揃いな足音だけが廊下に響いていた。
杉村と私と。足を引きずる千葉先輩の音。
視線は右足と左足が交互に動くつま先ばかりを追ってしまう。
いつもなら即座に会話を振ってくる杉村も、千葉先輩の顔を見ないようにしているのか、ただじいっと、廊下の先の昇降口を見つめて歩いていた。
乱れる鼓動を平坦にしようと、掌を握りしめる。
千葉先輩が歩いている右側の指先だけが、異様に冷えている感覚に襲われる。
痺れているのだろうか。緊張しているのだろうか。
まるでストレスから身を守る生体防御に思えた。
「知り合い……だったんだ?」
足を庇うように歩きながら、千葉先輩が口火を切る。視線は前方に向けられたまま。
でもその言葉が私に向けられているのは明白だった。
「少し前に……」
「そっか……全然、知らなかった……」
「隠していたわけでは───」
「違うんだ、そう言う意味じゃない。あいつが……理人が笑うとこ見るの……しばらくぶりだったから。魚住には笑うんだなって……ちょっと驚いた」
かける言葉なんて持ち合わせて無かった。
彼と千葉先輩の間に何があるのかなんて、想像することすら出来なかった。
ただ隣を歩く、俯いた千葉先輩の顔が切なそうに笑っていて、今にも涙が溢れそうなくらい苦しそうで。
あの体育館倉庫で見た瑞穂先輩の顔と重なった。
最初のコメントを投稿しよう!