魚行きて水濁る

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不揃いな足音だけが廊下に響いていた。 杉村と私と。足を引きずる千葉先輩の音。 視線は右足と左足が交互に動くつま先ばかりを追ってしまう。 いつもなら即座に会話を振ってくる杉村も、千葉先輩の顔を見ないようにしているのか、ただじいっと、廊下の先の昇降口を見つめて歩いていた。 乱れる鼓動を平坦にしようと、掌を握りしめる。 千葉先輩が歩いている右側の指先だけが、異様に冷えている感覚に襲われる。 痺れているのだろうか。緊張しているのだろうか。 まるでストレスから身を守る生体防御に思えた。 「知り合い……だったんだ?」 足を庇うように歩きながら、千葉先輩が口火を切る。視線は前方に向けられたまま。 でもその言葉が私に向けられているのは明白だった。 「少し前に……」 「そっか……全然、知らなかった……」 「隠していたわけでは───」 「違うんだ、そう言う意味じゃない。あいつが……理人が笑うとこ見るの……しばらくぶりだったから。魚住には笑うんだなって……ちょっと驚いた」 かける言葉なんて持ち合わせて無かった。 彼と千葉先輩の間に何があるのかなんて、想像することすら出来なかった。 ただ隣を歩く、俯いた千葉先輩の顔が切なそうに笑っていて、今にも涙が溢れそうなくらい苦しそうで。 あの体育館倉庫で見た瑞穂先輩の顔と重なった。
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