魚行きて水濁る

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「それがいきなりで、何が何だか……」 杉村が戸惑った様子で確認するように私を見る。 思い当たることなんて一つしかない。 千葉先輩の様子に変化が現れた理由。 それは多分、クジラさんだ。 二人が階段の所で出会った直後から、千葉先輩の様子がおかしかった。 「クソッ、何でこうなるんだよっ! 最近は調子良かっただろ」 沈痛な面持ちで森塚先輩が千葉先輩のお腹に手をあてがう。 「千葉、息止めろ」 落ち着いた声で森塚先輩が促す。 千葉先輩が青い唇を固く結ぶ。 あんなに苦しそうなのに、息を止めるなんて、大丈夫なのだろうか。 「腹の中の息を吐き出せ。ゆっくり……そう……」 森塚先輩の声に合わせて、千葉先輩が息を吐き出す。掌が吐き出す息に合わせて腹部に沈み込む。 「じゃあゆっくり、俺の手があるところに息を吸い込め。ゆっくり……ゆっくり」 千葉先輩が息を吸い込むと、掌がゆっくり外側に押し出される。同じ事を何度も繰り返す。苦しそうに息を止める姿は、目を背けたくなる程だった。 でも何度か繰り返すうちに、蒼白だった顔色が徐々に血の気が戻っていき、呼吸も先程の異常な早さは見られなくなっていた。 森塚先輩が腹部から手を離すと、 「わるい……」 千葉先輩がようやくいつもの声を出した。 森塚先輩の強張った顔が緩む。 「もう、大丈夫だろ」 「スゲー」 「良かった……」 杉村と顔を見合わせ安堵の息を吐き出した。
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