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「魚住は中学ん時、陸上部だったか?」
突飛な質問に、首を傾げつつ「はい」と答える。
「全中の出場経験は?」
「あります……けど」
全国中学校体育大会。いわゆるインターハイと並ぶ中学生の全国大会。でも、それが何の関係があるのだろうか。
「男子400、800二年連続二冠。これ聞いて心当たりあるだろ?」
「男子400……二冠……」
ずっと引っかかっていた。
ずっと気がかりだった。
どこで出会った事があるのか。
なんで私も奈津美も、見覚えがあるのか。
「ハインライン……理人」
自然とこぼれた名前は、何度も口にした事があるから。テレビで見て、新聞にも取り上げられ、彗星の如く現れたロングスプリンターに、当時陸上をする誰もがその人に焦がれたから。
「あれだけテレビでも雑誌でも騒がれてたからな。そりゃ覚えてるよな」
当時全中に出場した者ならきっと誰もが覚えているほどの存在感だった。
それに私は、彼と一度だけ、会場で言葉を交わしたことがあるのに、
──高跳びっていいよね。空を泳いでるみたいでさ。
どうして『クジラさん』だと、気付けなかったんだ。
「でも、名前も違うし、見た目も……」
中学生だったからか、背はもっと低く、顔だちも女の子の様に可愛いらしくて幼ないものだった。
そして印象的だったのは、生き生きと輝きに満ちた、あの青い瞳。
淡いブルーグレーが神秘的で、見る者全てを魅了してしまうんじゃないかと思えるほど。
でも確か、今の彼は───
「名前は、高校入学前にあいつの父親が事故で亡くなって、姓が母方の鯨井になったせいだ。あと、見た目ってのは、多分『目の色』の事言ってるんだろ? あれも突然、高校に入ってからカラコンで隠すようになったんだよ」
「何でそんなこと……」
あんなに綺麗だったのに……
「さあな、高校に入ってからのあいつは何処となく変でさ。人とも距離置くようになって、部活でのタイムは良かったのに総体の予選は落ちたりしてさ。結局、千葉が総体に出られる事が決まったんだけど、」
森塚先輩が言葉を切る。深呼吸するように息を吸い込み、吐き出す。一瞬の静寂に、緊張で喉の奥が締め付けられる。
「総体直前に、千葉を階段から突き落としたんだ」
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