魚行きて水濁る

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「え……」 誰が、 誰を? 馬鹿な、と叫びそうだった。 あんなに心配そうな顔で、千葉先輩の事を気にかけていたのに。 咄嗟に右側に座る千葉先輩を見た。 宙に浮く何かを凝視するように、千葉先輩はただ無言で森塚先輩の声を聴いているように思えた。 「その事が問題になって、総体は出場停止になった。千葉は入院するし、鯨井は二週間停学食らって、もう散々だったよ」 「じゃあ、千葉先輩はそのせいで……」 「怪我自体は治ってんだけど、精神面のダメージがデカかったらしくて、緊張が強いとさっきみたいな過呼吸が起きるんだ。特にトラック競技は頻繁に起きてさ……それでハイジャンに転向したんだよな?」 窺うように、森塚先輩が隣に顔を向ける。 千葉先輩は俯いたまま、膝の上で組んだ手をじっと見つめるだけで、何も言おうとはしなかった。 「鯨井も結局その日から部活に来なくなって、その辺りからだったっけな、例の事件が出始めたのも」 「例の……事件?」 「お前も知ってるだろ。掲示板のポスターが燃やされる事件」 考えたくも無い予感に胸が締め上げられる。 「あれも多分、鯨井だ」
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