魚行きて水濁る

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「俺は、鯨井がやったとは思わない」 暗い水の底に射し込む光───富永先生の言葉がそう思えた。 なんでそんな事が言い切れるのか、何を知っているのか、私には分からない。 だけど、絶望的な話の中で唯一縋れるその言葉に、必死に耳を傾けていた。 「もっと物事を俯瞰的に見てみろ。お前たちは目の前の情報に振り回され過ぎる」 「で、でも……ライターが見つかって、放火の噂が出た時だって、鯨井は何も否定しな───」 「否定しなきゃ肯定なのかよ」 遮るように、ざらついた声が室内に響く。 すると、富永先生はおもむろにズボンのポケットからライターを取り出した。 「なぁ、これは誰のライターかわかるか?」 「は? 何だよいきなり、先生のだろ」 帰ってきた答えに、富永先生は怪訝な顔をする。 「お前さ、俺の話聞いてたか? 目の前の情報に振り回されるなって言ったばかりだろ。魚住、分かるか?」 「えっ、私!?」 不意打ちの指名におたおたする。 でも。わざわざこんな事を聞いてくると言う事は…… 「誰か他の人の……ものですか?」 「その答えは、完璧じゃない」
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