119人が本棚に入れています
本棚に追加
カーテンを勢い付けて引いた先、目の前にいたのは悩ましき地縛霊でも、未練たらたらの浮遊霊でも、悪戯好きの悪魔でも無かった。
「て……天使?」
「え、違うけど……」
窓から吹き込む風に、透けるような琥珀色の髪が揺れる。澄んだ鈍色の瞳は、全てを見透かしているような深さ。
硝子細工みたいに、繊細で脆くて、指で弾けばバラバラに壊れてしまいそうな。
そんな美しさだった。
おそらく生粋の日本人ではないと一瞬で判る整った目鼻立ち。色素の薄い髪色と虹彩。
そして雪の様に透明感のある白い肌。
まさに天使。
グローバルとは縁遠い私にしてみれば、そう例えるしかなかった。
そしてその綺麗な顔が、ふっと気の抜けたように綻ぶ。
「さっき、寝言言ってた」
その言葉に愕然として口を手で覆う。
「う、 嘘っ! 何て!?」
「教えない」
「ええー! い、意地悪!」
彼はふふっと笑って、備品入れのガラス戸を開けると新品のガーゼや脱脂綿をせっせと補充している。保健委員だろうか。
まさか初対面の人に寝言を聞かれるとは最悪だ。情けなさに項垂れると、落ちた視線の先に、見覚えのある鞄が置かれている。私の鞄だ。
そこでようやく、自分が保健室のベッドの上にいる事に気が付いた。
「そう言えば私……どうやってここに」
確かジャンプに失敗して、千葉先輩に起こしてもらって、それから……
「覚えてないの?」
「……うん。さっきまでグラウンドで───」
「泳いでたよね?」
笑顔で被せられた言葉の意味が分からず、確認するように自分を指差す。一体誰と間違っているのか。
「 泳ぐ? 私が? 水泳部……じゃないけど」
「知ってるよ。陸上部で高飛びしてる子でしょ?」
「なんで……」
最初のコメントを投稿しよう!